前回のブログの続きです

人材育成において、行動の観点から褒めることと叱ることのメリット/デメリットについて以前お伝えしてきました。

しかし、実際にこれまで人材教育をしてきた管理者やコーチ、教師、親、の中には、

「いやいや、こっちは現場で長いことやってきたが、褒めた後はパフォーマンスが落ちて、叱ったあとによくなるほうが多かった!」

と主張する方もいると思います。

その主張は半分正しく、半分間違いです。

平均への回帰

これは単に記憶力や思い込みの問題だけではありません。平均への回帰を考えていないことが大きいです。

平均への回帰とは偏ったデータが得られた後に再度データを取得するとその値は平均へ近づくというものです。

わかりやすくいうと、なんもしなくとも人は平均に近づくということです。

 

ここで例をだして考えてみましょう。

今月あなたの会社は営業の成績がひどく悪いです。そこで、あなたは管理場面で厳しく叱ることを徹底しました。すると、みるみるうちに営業成績が伸びました。

次にあなたは、営業成績が良くなったので、社員の皆に褒めまくりました。すると今度は、営業成績が落ち込みました。

さてこの例から、叱ることは効果的で、褒めることは効果なし、ということが言えるでしょうか?

 

答えはNOです。

なぜならば、褒めている場面と叱っている場面が全く異なるからです。

考えてみてください。そもそも褒めるときはどんなときですか?

叱るときはどんなときですか?

褒めるときは上手くいっている(パフォーマンスが高い)ときで、叱るときは上手くいっていない(パフォーマンスが低い)ときです。

人間であれば、パフォーマンスが常に一定であることはありえません。日々変化しています。調子いい日もあれば、悪い日もありますよね。

パフォーマンスが高い状態のときはその後も上手くいき続けることは少なく、平均の状態に近づきます。一時的にパフォーマンスが落ちるのです。

パフォーマンスが低い状態のときはその後も落ち続けることは少なく、平均の状態に近づきます。こっちは逆に一時的にパフォーマンスがあがります。

 

つまり、なにもしなくてもパフォーマンスは変化し、平均(普通)の状態に近づくのです。

褒めたことや叱ったことが原因ではなく、ただ自然に起きる現象なのです。

これのやっかいな部分は、データだけ見るとたしかに叱った後のほうがパフォーマンスが上がっているとこです。

なので、平均への回帰を考えないと、統計的にも有意な値が出てしまい、叱る方が良いと判断してしまいます。

しかし、実際はそもそもデータを取っている場面が偏っているだけです。

この問題は教育系の論文でも実際にいくつかみられます。データがある、統計分析の結果がある=正しい、科学的、真実、ではないのです。

先ほどの例で褒めることと叱ることの効果を検討したいなら、

パフォーマンスが異なる様々な場面でランダムに褒めたり、叱ったりして、どんなパフォーマンス状態でも一貫したデータが得られないといけません。

 

以上のことから、叱る方が効果的であると主張している人は今一度、平均への回帰を考慮しているか振り返る必要があります。

前回のブログと今回のブログ、褒めることと叱ることに焦点を当ててきました。

行動的な観点と統計的な観点、両方から考えてみても、「叱る方が効果的」というのは、主張できないかなと思います。

叱らずにどうやって効果的な教育ができるのか、具体的な手法などについてはこれからぼちぼち紹介していきます。

 

ではまた

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