人間のパフォーマンスに与える要因はいくつもあります。
そして、パフォーマンスを向上させるための方法もかなり存在します。
そのため、
「従業員のパフォーマンスを向上させたい。けどどっから手を付けていいかわからない。」
となりがちです。
そんなときに便利なのが、Thomas Gilbertの行動工学モデル(BEM : Behavior Engineering Model)です。
このモデルは厳密な科学ではありませんが、非常に参考になると思います。
Gilbertの考え
パフォーマンス向上にはどんな要素があるのか、またどこから手をつけるべきか、という基準になります。
Gilbertはスキナーの行動科学をビジネス界に持ち込んだ第一人者で、下の図がこのモデルの一部です。
ボイエット・ボイエット(1999) 参照
著書の「Human Competence: Engineering Worthy Performance」(Gilbert, 1978) は、アメリカの組織マネジメントや人事マネジメントでは鉄板の教科書です。
Gilbertは人間がパフォーマンスを発揮できないのは、3つの環境要因と3つの個人要因があると考えました。
図でいうと①~③が環境要因、④~⑥が個人要因です。
そして、パフォーマンス向上させる際の優先順位もこの数字順であるとしています。
つまり、⑤、⑥の個人の資質や才能、動機や価値観などはパフォーマンスの改善において重要視すべきところではないのです。
これを提唱したのは、1978年とかなり前なのですが、日本では今でも⑤と⑥を必要以上に重要視しているのではないでしょうか。
日本ビジネスのマネジメントにおいて、潜在能力、やる気、モチベーション、価値観、これらの言葉は非常によく聞きます。
もしかしたら、順番が逆になっているかもしれません。
しかし、個人の資質や価値観などは会社側で変えようと思ってもうまくいきません。
Gilbertも同様に、「個人の資質や動機がパフォーマンス改善において、必須なことなんてほとんどない。これらはどうしてもうまくいかなかったときの最終手段だ。」
みたいなことを言ってます。
もちろん、Gilbertの理論を日本でそのまま使用できるかは検討する必要がありますが、当たり前と思っている現在のマネジメントを考え直す良い機会だと思います。
情報を与えているか
ではGilbertは何がパフォーマンス改善に重要だと考えたのでしょうか。
情報や道具です。
パフォーマンス向上のためには、十分な情報と道具の工夫が必要だと言っています。
情報とは
・なんのために仕事をしているのか
・なんの役にたつのか
・どうやってフィードバックされるのか
・何をどのくらい行うことを期待しているのか
などです。
一見当たり前かと思いますが、これらを明確に従業員に示している企業はほとんどないと思います。
「お客様の幸せのため」「地域貢献のため」
などの非常に曖昧なものが多いです。
そうではなく、会社が何を目指しているのか、何をどのくらい期待しているのか、この作業がどんな成果になるのか、フィードバックの方法は何か、これらを従業員に十分与えているかが重要です。
Gilbertは行動分析家やコンサルタントについても下記のような面白いことを言っています。
「パフォーマンスの改善を考えるときに、皆インセンティブ(報酬)を重要視しすぎているよ。」
(インセンティブは非金銭的なものも含みます)
私自身もGilbertのこの指摘を見るまでは、「いかに強化子を用意するのか」に取り憑かれていました。
正の強化などの、結果の操作が重要なことは間違いないです。
ただ、それはあくまで行動分析のアプローチの一つで、行動の結果を変えるよりもっと効率よく改善できる手段があるならそちらの方が賢いですね。
特にビジネス場面では、うまくパフォーマンスが発揮できない社員に、どんな情報を提供しているのか、道具や作業工程の変更はできないか、を考えた上で結果操作を考えたほうが良さそうです。
個人より環境に目を向けよう
今回紹介したモデルは、古くからあるもので、現在では様々な改善点も指摘されています。
また、先述したように厳密な科学として、基礎実験の上に成り立っている理論ではないので、どんなケースでもこの①~⑥の優先順位だとは言い切れません。
それでも、アメリカで行動科学や経営のマネジメントとして、大きく受け入れられたのは事実です。
私自身も細かい順番はケースで変わると思いますが、④~⑥(個人要因)よりも①~③(環境要因)を重視すべきというところは全面的に同意です。
現在でもGilbertから学ぶべきことは多いですなあ。
ではまた。
Yu
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